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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室89】生死に関わること以外は先延ばし。この「先延ばし癖」直りますか?

【今週のお悩み】
私は怠惰な人間です。特に先延ばし癖がひどいです。なにかやらなくてはいけないこと、人に伝えなくてはならないことがあるときなど、多岐に渡るタスクを常に(生死に関わること以外)先延ばしにする傾向があります。 すぐに取り組めば終わることも、先延ばしにしてしまうため、取り組むこと自体が億劫になり、問題も大きくなり、時にはタスクを投げ出してしまうこともあります。効率が悪く、自分で自分の首を絞めることを繰り返しています。 そんな先延ばし癖が災いし、(原因はそれだけでは無いですが…)大学卒業を間近に控える現在も就職先が決まっていません。そのことで、就職留年するか、とりあえず卒業をし、既卒のまま就活をするかなど、どうするかの相談も先延ばしにして未だ親に伝えていません。自分にしみ付いてしまっているダメな癖を正すには、どうすればよいでしょうか…? (文章が下手ですみません…)(こずえ・21歳)

 

 

宇多丸:こずえさん、文章全然下手じゃないじゃん! そんなに卑下しなくても大丈夫ですよ。
とりあえず言えるのは、僕自身含めて大抵の人は、「先延ばし癖」、大なり小なりあるもんじゃない?ってことですよね。
少なくとも僕の周りの大人たちだってみんな、基本なんでも〆切ギリギリまで引っ張っちゃって、いっつもヒーヒー言ってるような連中ばっかりですよ。

たとえ何かのプロであっても……ていうか、むしろプロほどその傾向が強いくらいかもしれない。
もちろんそりゃ、なんでも早めに片付けられるならそれに越したことはないし、たしかに、サクサクいけちゃったときにしか出ない良さ、みたいのもあったりするんだけどさ。

でも逆に、本当にギリギリの、崖っぷちに追い込まれたときにこそ出せる力とかアイデアっていうのも、やっぱり間違いなくあるもんだから。まさしく火事場の馬鹿力的なね。

僕の場合も、たとえば歌詞書きとかホントそういう感じ。あっ、そう言えばこの連載も、いっつもギリッギリまで引っ張って、細かく直し入れさせてもらってるしね。
だからさっきの「プロほど先延ばし傾向強いかも」って話も、要はあるレベル以上の手練だからこそ、そこを半ば意図的に狙ってやってる部分もある、ってことなんだと思いますよ。

こばなみみたいな編集業なんて、まさにそういう、「ロープ際の魔術師」(プロボクサーのジョー・メデルがファイティング原田など名ボクサーをロープに下がりながらのカウンターで倒したことからそう呼ばれた)ならぬ、「〆切際の魔術師」そのものなんじゃないの?

 

こばなみ:ホントそうですよ。〆切があるからやべー!っつって、ケツに火がつくというか。あと〆切直前ハイも本当にあって、フリーペーパーを作っていた時なんかも、入稿間際にパカーンとひらめいて、表紙タイトルやデザインががらりと変わったりとか、ありましたし。

 

宇多丸:ただ、今回のこずえさんの場合は、「問題も大きくなり」「投げ出してしまうこともあります」というくらいで、そんな「〆切際の魔術師」たちのように、自分の先延ばし癖をコントロールしてプラスに転じるような域にはまだ、ほど遠いっぽいよね。
こばなみは本当にリミットを超えちゃって、原稿が落ちちゃったとかってある?

 

こばなみ:ページが真っ白!とかってのは、今のところ幸いにもないですけど、ムックの校了前々日まで原稿を待っていたライターさんから、最終的に「Macが壊れました」ってしょうもない連絡が来てぐえー!!! みたいなことはありました。絶対嘘!だと思いますけどね(苦笑)。そこから知り合いのライターさんに電話しまくって寝ないで書いてもらって、なんとか巻頭7Pを正味1日でつくりましたよ……。トホホ。

 

宇多丸:どっちかって言うと〆切破られて迷惑した側か。
さっき言ったみたいな「〆切際の魔術師」たちが、とはいえなぜ最終的には必ずギリには間に合わせてくるのかって言えば、ひとつにはまさにここがあるからかもしれないよね。「人様に迷惑がかかる」!

自分が〆切を守らないことで、近しい人がそうやって寝ないで作業するハメになったり、立場が悪くなってしまったりするかもしれない。もっと言えば、少なからぬ金銭的な損害を与えることだって考えられるし、最悪、誰かが首をくくるような事態を招いてしまうとかだって、ケースによってはあり得ない話じゃない……当然、その後の信用は完全に失ってしまいますしね。

それだけは絶対に避けなければ!ということで、ここ一番の踏ん張りを発揮しようとするわけでしょ。
で、思うにこずえさんは、ひょっとしたら年齢や立場的にまだ、そこまで本当に切羽詰まった、言わば「他者への深刻な責任が生ずる〆切」というのを、ちゃんと経験したことがないんじゃないかな、と。

だって21歳、学生だとしたら、その「タスク」ってつまり、宿題とか課題とかテストとか……深刻なほうでも就活とか、でしょ?
それってしょせん、仮に先延ばし癖がたたってクリアできなかったとしても、言っちゃえばホントに「自分で自分の首を絞める」だけ、自分が損するだけのことじゃないですか。

だから実は、全部自分次第でダラダラ先延ばし「できてしまう」程度の追いつめられ方しかしてない、ってことかもしれないですよ、まだ。

たとえば僕だったら、一番シビアな〆切って、「生放送」とか「ライブ」だと思うんですよね。
どんなにお願いしても、先延ばしなんて、絶対できないわけじゃん。ケガしたとか不測の事態なら別かもだけど、それにしたって各方面に多大な迷惑がかかるのに変わりはないわけで。

決まった日時までに必要な準備をして、その場所に行ってやるべきことをやらないと、マジでマジで大変なことになってしまう……しかも、誰にもその役目を代わってもらうことはできないんですよ!

だからこそ、僕みたいに本来は病的なレベルの先延ばし癖の持ち主も、文字通り「やるしかない」から、やるしかない。ホント、もともとはこずえさんなんか目じゃないくらい、なんでも面倒なことは先送りし続けたい、サボるのだ~いすき!な人間なのにさ。

これはちょっと極端な例のように聞こえるかもしれないけど、いつかこずえさんだって社会に出れば、誰かから「あなたならできる」と信用されて、先延ばしや代替の効かない「タスク」をまかされることが必ず出てくるんじゃないですかね。

そこからも逃げる!ってほうが、むしろ大変なことだからさ。そういう逃避的態度をひたすら貫き続けられるなら、それはそれでひとつのアウトロー的生き方としてカッコいい気さえしてくるけど……普通の人はそこで、「めんどくさいから」逆にやっちゃうしかない、ってことになると思うんですよ。

で、やってみたら意外にやっぱり、いっぱいいっぱいにはなりつつも一応できるはできちゃって、そうすると周囲の信頼も増すから、「またよろしく」ってことになってくる。

そしたらまた「めんどくさいから」やるしかなくて、やったらやったでギリやれちゃって、またまた信用が増してさらに大きな頼みごとをされるようになり……とまぁ、みんなおおむねこんな感じのサイクルで、だんだんと端から見れば「できる人」になっていく、ってだけのことなんじゃないですかね。

早い話がさ、本当に責任ある「仕事」をするようになって、ここが大事なんだけど、少しずつでも成功体験を積み重ねていけば、少なくとも「〆切際の魔術師」には近づいてゆくはずじゃないかなぁ、と思うんですけどね。

現状のこずえさんだって「生死に関わること」なら先延ばしはしない、とわざわざ但し書きしてるくらいなんだからさ。いつかマジでケツに火がつくようなことがあれば、そのときはきっと、普通に「魔術師」の仲間入りしてますよ!

 

こばなみ:まだその場面に出くわしてないだけですね。変に自分を責めすぎず!

 

 

宇多丸:ちなみに、もし仮に社会に出て、それなりの責任を負う立場になってなお、学生気分の先延ばし癖でうっかり「本当のリミット」を超えてしまったら、どういうことが起こるのか……現実にはできれば一生味わいたくないそんな修羅場的状況を疑似体験できる作品として、こずえさんには、藤子不二雄Aの『まんが道』もオススメしておきたいですね!

主人公二人のモデルは当然「藤子不二雄」なんですけど、途中、連載も複数抱えるようになって、プロの漫画家としての活動も軌道に乗り始めた彼らが、正月に帰省するくだりがあるんです。

久々の実家の快適さについ気がゆるみ、迫る〆切にも「まだ大丈夫、まだ大丈夫」とズルズル先延ばしを続けてしまう二人。するとそこに出版社から、かなり切迫した原稿催促の電報が!
「モウギリギリシキュウオクレ」
「マニアワヌスグオクレ」
しかし、いかんせん溜め込んだ仕事の量が多過ぎた。あわてて執筆に取りかかるも、とても間に合いそうもなく……その間も怒気を含んだ催促の電報は届き続ける。「ゲンコウマツテイルガトドカズ」。悪夢!

そしてついに、最後通牒が。
「ゲンコウオクルニオヨバズ ヨソヘタノンダ」
そしてばったり電報も来なくなったのでした……。

 

こばなみ:こわっ……聞いてるだけで恐ろしい。

 

 

宇多丸:A先生独特の「黒い」タッチがまた余計に怖いんだよね……とにかく、これ読むだけで相当な戒めになるんじゃないかってくらい、マジでトラウマ級に絶望的な気分が味わえますよ。

ま、なかには〆切全然守らないので有名な人、みたいのもいるはいるけど、それでも仕事がちゃんと後から後から来るっていうのは、そのマイナスをチャラにしてあまりあるほどズバ抜けて優秀だっていう、要は一種の天才ってことなんで、普通の人は絶対マネしちゃダメ!

 

こばなみ:自分も含め、普通の人は〆切やぶったら、次から仕事こなくなりますからね。

 

 

宇多丸:ついでにもう一個、A先生の『明日は日曜日そしてまた明後日も……』という短編も、責任なき先延ばし癖をうまく卒業できないと、一生モラトリアムになっちゃうぞ!という恐怖を容赦なく突きつけてくるという意味で、今のこずえさんにはちょっと劇薬かもしれないけど、やはりオススメしておきたいですね。

もっと大きな話をしておけばさ、人生における究極の〆切って、要は「死」なわけじゃん?

で、本当はその〆切はいまこの瞬間も刻一刻と迫ってるんだけど、僕らは普段、あんまりそれをちゃんと意識しないで生きてるから、ついついいろんなことを先延ばし先延ばしにしちゃって、いよいよ残り時間が少ないことがなんとなくわかるころになってようやく、「あれもしとけば良かった、これもしとけば良かった」などと後悔することになるっていう……とはいえ、そういうこと全部を完全にやりきれるほど、実際の寿命も、我々の日々の余裕もなかったりするからねぇ。

そう考えると、人間いつ死ぬかわからない、という真実にちゃんと向き合ったときに、こずえさんのなかにもたぶん、「これだけは絶対に先延ばしにはしたくないこと」というのが出てくると思うんですよ。

だったらまずは、それを本当に実行に移すことから始めてみるのもいいんじゃないですかね?
気が向かないことにウジウジして時間取られるより、とりあえず今は、よっぽど効率的な人生の過ごし方かもしれませんよ。

 

 

【今週のお絵描き】

画・宇多丸

 

[プロフィール]

ライムスター・宇多丸/日本を代表するヒップホップグループ「Rhymester(ライムスター)」のラッパーにして、2007年にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(毎週土曜日22:00~24:30)が始まるや、ラジオパーソナリティとしてもブレイク中。ほかTOKYO MX「バラいろダンディ」(毎週水曜日21:00~21:55)、TBS「アカデミーナイト」(毎週木曜深夜2:46〜)などさまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。http://www.rhymester.jp/

 

※ラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の特集コーナー「サタデーナイト・ラボ」でこれまでに放送してきた、数々の特集から選りすぐりの神回を集めた一冊『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル “神回”傑作選 Vol.1』がスモール出版より絶賛発売中(税別2,200円)。購入はこちら

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