飲まない/飲めない派の人を飲み会に参加させてしまうのって、たしかにこっちも心苦しいんですよね。ただ、そう言うとみなさん一応、「場の雰囲気を味わうだけで楽しいから気にしないで」的なことをおっしゃってくれたりするじゃないですか。
僕も、飲む酒とかにもよるけど、わりと酔いのカーブはゆるやかなほうなんで、同席者が先にベロベロになっちゃって、「あ、今夜はもう、この人とは会話になんないな」みたく感じる場面はよくありますよ。

こばなみ:宇多丸さんはウザくはならないのですか?

宇多丸:口論癖があるってよく言われはしますよね……(汗)。
まぁ、いつもなら内心「いや、それはどうかなぁ……」とは思いつつスルーして済ましてるような誰かの発言にも、アルコールが入っていると、つい本当にひとこと物申したくなってしまいがち、という傾向は間違いなくあると思います。まぁいわゆる「めんどくさい」人?
この、なんでも「めんどくさい」でかたづけてしまう風潮にも異論はあるんだけど……ってもうすでにめんどくさいよ!(笑)
お付き合いいただいてるみなさん、いつもホントすみませんねぇ……。
ただそれも、メンツ次第ですよね。なんだかんだ言ってお互いそういう風にやいのやいの言い合うのが楽しいんだよね、っていう信頼関係が実はしっかりベースにあるような、要は議論友達相手なら、こっちも手加減せずパワー全開にしちゃうし(笑)。
いっぽう、そういう距離感じゃないライトな知り合いがメインの場……たとえばたまに行くバーとかでは、たぶんすごいおとなしい人だと思われてるはずだし。「テレビとかで見かけると同一人物とは思えない」ってよく言われます(笑)。
そもそも僕、ホントにホントのプライベートでは、極端に口数も少なくなるし、信じてもらえないかもしれないけどものすごく温厚な人になるんで。
ひとつ言えるのは、僕の場合、相当飲んでても表面上はあんまり様子が変わらないというか、比較的理路整然と話し続けてる風なのに、後から振り返ってみると実はなんにもおぼえてない、みたいなことがたま~にあって、それはマジで怖いですよね。
「えっ、オレそんないいこと言ってた?」ってパターンはいいんですけど……(笑)。

こばなみ:私は怒ったり笑ったりいろいろではあるのですが、もうここのところ、言ったことをおぼえてない。にこやかに終わった、なんか1回揉めた気がするなど、雰囲気はわかってるんだけど、内容が思い出せない。2軒目で話したことは、たいてい覚えてない。まずいなぁとは自覚しているのですが。

宇多丸:2軒目って早くない?
まぁ、年齢なりに弱くなってるんだろうね。
それにしても改めて、僕もこばなみも、記憶なくすのはマジでダメだよね。それだけはお互い、本気で直そうよ!
やっぱさ、自分でしっかり責任が取れないような言動を取っちゃってる時点で、大人失格でしょ。ましてアラフォー、アラフィフにもなって、そんなの許されないし、みっともないだけだよ。
だから、その手前で酒量をコントロールするのは、我々にとって最低限のマナーだということですよ。

こばなみ:ホント、気をつけないと、ですね。ごめんなさい。反省!
きちんと帰ってるから、そこは大丈夫なんだけどなぁ。

宇多丸:わかるわかる。
僕も、どうやって帰ったのかすらさだかじゃないのに、たとえば、冬場の定番なんだけどレンジでチンして温めるアイマスクみたいなのとかまできっちりセットして寝てたりして、我ながら「そこはちゃんとやるんかい!」って(笑)。
おそらく、その場その場の日常的/常識的判断はギリできてて、記憶回路だけが断線してる状態なんでしょうね。
いずれにせよ、まったくほめられたもんじゃないことには変わりない。
で、飲まない身として「お酒の席を楽しくサバイブするコツ」ということですけど……。
たとえば、ほかの連載などでもちょいちょい引用してるんだけど、
『ふろぞいの林檎たち』で、国広富之さん演じる東大卒の本田っていう、まぁこれ以上ないほどわかりやすく「冷たいインテリ」なキャラがいて、彼が劇中で説いてみせる、まさに「自分では飲まない立場として、酒の場というのをどう楽しんでいるか」論というのがあるんですよ。
「もっとも人が酔っていくのを見ているのはそれほど嫌いじゃない。毒薬が、だんだん効いていくのを見ているようでね……当人はちっとも酔ってないつもりで、口調が少しだらしなくなってくる。そのうち顔が赤くなる。醜くなる。話がくどくなって、グラスを倒したりする。後で思い出したら死にたくなるようなことを喋り出す。吐いたりもする……それを飲まないで見ているのは、楽しみでなくもない」……どうこれ? 切れ味鋭すぎでしょ?
とにかくこんな風に、完全に高みに立った視点から、酔っぱらいどもの愚かな振る舞いの数々を「冷静に観察する」というところに密かな愉しみを見つける、というのはまぁ、たしかにひとつの手ではありますよね。
僕らの周りで言うと、プロインタビュアーの吉田豪さんがまさにこのタイプで(笑)。
ご本人もまったく飲まないわけではないけど、当然のごとくほどほどにセーブしつつ、僕とかが酔ってどんどんヒートアップしてく様子を、「僕はちゃんとおぼえてますからね」って感じで、いつもニヤニヤ眺めてらっしゃいますよ(笑)。
まぁ、ただごとじゃない分量のお仕事を常時抱えてらっしゃる方なんで、いちいち酩酊状態になってるヒマがないっていうのもあるんでしょうが……飲み会の最中に、会話に参加しながら原稿書いてますからね!
もっとも、吉田さんのそういう意地悪なとこは僕らも織り込み済みで親しく付き合ってるし、『ふぞろい』の本田さんは要するに「人からどう思われようとまったく構わない」人だからいいんだけど……普通はやっぱり、「観察モード」で飲み会に参加してますなんて堂々と宣言したら、サクッと嫌われるよね(笑)。
まぁだから、あくまで自分だけの、心の中のエンターテインメントとしていかがでしょうか、と。
こばなみ:ただ、「介抱と尻拭い」、これはどうしたらいいんだろうか……?

宇多丸:毎度毎度他人に介抱だの尻拭いだのさせるような飲み方してる時点で、僕は「じゃあお前は飲むなよ!」って言いたいですけどね。酒、全然弱いんじゃん!
要はさ、「自分は酒が弱いんだ」「むしろ飲めない側なんだ」っていう自覚がないまま、単に風習に流されて酒を飲んでるだけの人っていうのが、実はけっこうな割合いるんじゃないか。
だって、日本人の半分だっけ? 酒を分解する酵素が弱い、もしくはない、という話。
ALDH(アルデヒド脱水素酵素)にはアセトアルデヒドが低濃度の時に働く「ALDH2」と、高濃度にならないと働かない「ALDH1」があります。日本人の約半数は、生まれつき「ALDH2」の活性が弱いか欠けています。
このタイプは、アルコール分解産物である有害なアセトアルデヒドを速やかに分解できないため、少量のアルコールでも悪酔いしやすい、お酒に「弱い」体質です。
とのことです。
日本人の44%は「弱い」タイプみたいです。
ヨーロッパ系白人やアフリカ系黒人、そしてトルコ人は、このタイプは0%。つえ~! おとなり中国は41%でした!

宇多丸:あと、「前は飲めなかったのに、鍛えたら飲めるようになった」みたいなこと言う人、よくいるじゃん?
あれはたぶん、アルデヒド以外の酵素でも代替的にアルコールを分解することはできるからだと思うんだけど、それってメチャクチャ身体に悪いらしいじゃん?
こばなみ:それはおそらくMEOS(ミクロゾームエタノール酸化酵素)のことかと思われます。
アルコールを大量に摂取すると、アルコール脱水素酵素やアセトアルデヒド脱水素酵素が代謝しきれなくなるので、このMEOSが活性化して代謝を行うそうなんですが、これが活性し続けると、肝臓の負担が大きくなり、肝障害を起こしやすくなるそうです。
アルコールの代謝が終了しないうちに薬物を飲むと、MEOSが薬物の代謝もおこなっちゃうので、効き目が過剰になったりすることもあるそう。
こわい~!

宇多丸:だから、酒を鍛えるとか、絶対ダメなんだよね。
さっきデータとして出てた人種的特徴から考えると、むしろ日本の風土には、本来合ってないドラッグなのかもしれない、って思えてくるくらいだよね。
そもそも「アルコールはドラッグ」なんだっていう……それも、使いようによってはかなり危険性が高いドラッグなんだ、っていうような意識もないまま、カジュアルに摂取してる人がほとんどだというのが、まず一番の問題なんだろうね。
さっきの介抱にしろ尻拭いにしろ、「勝手にドラッグやって人に迷惑かけてる」って考えたら、こんなひどい話ある?ってことに、普通なるでしょ。
たとえばタバコっていうドラッグに関しては、近年そこんとこ厳しくなってて、「キメたいやつだけで世間様に迷惑かけないようにキメろよな」っていうのが、ちゃんと社会通念になってきてるわけじゃないですか。
でも、こと酒ってことになると、日本はやっぱり、とことん甘いよね。
だからさ、「会社の飲み会」っていうのがもう、キてるんだよな。
「企業公認で、半ば強制参加のドラッグ会」なんだもん。冷静に考えると異常だよね。
僕は会社勤めしたことがないんで超無責任に言わせてもらうけど、どうしても懇親会が必要なのであれば、明らかにアルコールがデフォルトというわけではない、もっとフラットな場を設けるのが筋だよね。普通に「食事会」でいいと思うんだけど。
なんにせよね、ピピさんのイライラは当然で、いっこも間違ってないですよ。

こばなみ:「飲まない奴はつまらない」っていうのも、ずいぶん一方的ですよね。よく言う人はいますが。

宇多丸:言うまでもなく、その物言い自体はまったくひどいもんですよね。
さっき言った通り日本人の半分は飲まないんじゃなくて飲めない人なんだし、当然ながら、飲んでもつまらないやつはやっぱりつまらない(笑)。
ただ、たぶんね、それを言う人は、『ふぞろい』の本田さんの主張と実はまさに裏表で、「……と、そういう自分のマヌケで醜い部分まで、心おきなくさらし合えるかどうか」でこそ、相手の信用度を測っているわけですよ。
それはおそらく、僕がさっき言った「酒飲みは場が荒れるの込みで楽しんでる」というのとも、もちろんピピさんお怒りの「飲んでたってだけでシラフじゃ許されないことがただの笑い話や武勇伝になる風潮」とも、つながっていく話で。
立川談志の「落語は人間の業の肯定だ」っていう有名な言葉にもちょっと近いニュアンスだと思うんですけど……要は、「しょーもないオレたち人間」を丸ごと楽しんで、なんなら慈しむ、みたいな感覚。
それこそ、とんでもなく酒グセが悪いやつがいたとして、その場ではもちろん一同さんざん閉口したり迷惑がったりしてるんだけど、「……という、どうしようもないアイツ」をこそ、結局のところみんな愛してやまない、的な感じというか。
前にも引用した僕らの
『ペインキラー』という曲がまさにそういうテーマなんですが、
正しいか正しくないかで言えば間違いなく正しくないんだけど、正しさだけでは生きていけないのもまた人間であって……で、その「人は正しさのみにて生くるにあらず」ということのまさしく証明として、もちろんアルコールを始めとするドラッグはあるし、あらゆる嗜好品というのもあるし、もっと言えば音楽やらなにやらのエンターテインメントや「趣味」全般もある、という。
ピピさんだって、「それがなくても別に生存にかかわるわけじゃないのに、わざわざそれなりのコストを割いてまで、ついつい必要としてしまうもの」、言っちゃえばある種の「悪癖」めいたもの、なにかしらないですか?
グルメや、おしゃれや、旅行にお金をかけることだってそのうちだと思うんですけど。
仮に、そういう悪癖が完全にゼロ!みたいな人が現実に存在したとして、その人のほうがよっぽど病みを感じさせるというか、ちょっと心配になっちゃうくらいじゃないですか。
とにかくそういう、ピピさんにとっての「わかっちゃいるけどやめられない」なにかが、ある種の人たちにとっては酒なんだ、という想像力の働かせ方はできるんじゃないかと。
もちろん、だからこそ、じゃあそれを他人に押しつけたり、巻き込んだりするなよ!というピピさんのお怒りは、至極まっとうなわけですが……現状やっぱりアルコール摂取というのが、「必要悪としての悪癖の一種」でしかないという謙虚さがまったく感じられないほど、社会的に甘やかされすぎているのは動かせない事実ですよね。
ということで改めて、ホントすんませんです……。
とは言え、いますぐ日本社会全体の悪習を改めさせることもなかなか難しいかと思われるので……とりあえず今後、ピピさんがどうしても酒の場に同席しなければならなくなったときには、ひとまず、
①酔っぱらいならではのしょーもない言動の数々を、「観察モード」で、密かに高みから楽しむ
②そして、その愚かさ醜さ込みで、愛すべきその人らしさ、ひいては人間らしさと考え、生暖かく見守ってあげる
と、いうような心持ちで臨んでみてはいかがでしょうか?
問題の「介抱と尻拭い」に関しては……僕はそれ、少なくともピピさんは、やらなくていいと思いますよ。
だってお酒って、自分で選択したことの責任は自分で取れる人、すなわち「大人」しか飲んじゃいけないものなんでしょ?
だったら、結果酔いつぶれてようが吐いてようが全部そいつが負うべき問題で、ピピさんにはなんの関係もないことですよ。自分が帰りたいときにさっさと帰ればいいと思う。
強いて言えば、そんなのは飲むやつ同士が互助精神で(笑)なんとかし合えばいいことで。
あと、それが友人なら、シラフのときにはっきり言ってやってもいいと思う。
「私は飲まないのに、いつもあなたたちの後始末をさせられるのは理不尽だし不快だから、今後はそういう状況になったら放っておくし、すぐ帰らせてもらう」って。
もしそれで、ピピさんのことを冷たいとかなんとか言って責めてくるようなやつがいたら、そいつとはもう付き合いを絶っていいくらいだと思うよ。どんだけ甘ったれてんだよ、って話でしょ。
つーわけでね。結論としては……僕もくれぐれも気をつけます……(泣)。

こばなみ:これからのシーズンを前に、酒について振り返るのはよかったですね。飲む人も飲まない人も、ハッピーな忘年会になりますように!
【今週のお絵かき】